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小よく大を制す

 調和道丹田呼吸法の創始者である田霊斎師は、真言宗智山派の僧侶でした。ですから、弘法大師空海(宝亀5〈774〉~承和2〈(835〉)を尊崇してやみませんでした。
 以下は、空海の言葉です。

  それ気海(きかい)微(すくな)しと雖(いえど)も忽(たちま)ち満界(まんかい)の雲を起こし、眼精(がんせい)至って小な   れども、能 (よ)く遍虚(へんこ)の物を照らす。
 
 気海はヘソの下一寸半、丹田より一寸半ほご上部ということですが、丹田と共に下腹部一体を総称していると思われます。下腹部は、全身から見ればわずかな部分ですが、ここに気力を籠めれば、満天に雲をわき起こすほどの力がある、ということです。そして眼精すなわち瞳は、きわめ小さな部分ですが、宇宙のすべてを見通すことができる、というのです。

 気海にしても眼精にしても、ごく小さな部分が大きなはたらきをしているということです。その大切な部分を知って、そこを磨いていくことが大事なのだということです。
 調和道丹田呼吸法は、気海丹田の小部分を磨き充実させて、龍が天に昇って雲を起こすようなパワーを発揮しようとするものです。 

上虚下実と身体パフォーマンス

 私たちがいつも大地に足をつけていられるのは、地球の引力のおかげです。一方回転する地球には遠心力も働いています。
 「上虚下実」の姿勢が理にかなっているのは、地球の遠心力と引力それぞれに対応しているからだと思います。力みの抜けた上半身(上虚)は遠心力の顕現であり、どっしりとした下半身(下実)は引力の顕現と言えます。
 引力は重さとして私たちにも実感できますが、遠心力は強い引力より弱いのであまり実感できません。遠心力を感じるには、かなりデリケートイな感性が必要で、それは上虚であることが必要です。
 この感性が、身体のパフォーマンスを大きく左右します。走るにも、格闘技をするにも、踊るにも、楽器を演奏するにも、絵を描くにも、遠心力を感じる感性は大変需要なことです。

 上虚下実を基本条件とする丹田呼吸法は、その意味でも非常に価値のある身心修養法なのです。 
 

不幸中の幸い

 私もご多分に漏れず、オンライン会議を何度か経験しました。放送設備もない我が家から、簡単に広い地域の人たちと話し合えることに驚きました。
 もう一つの驚きは、画面の自分の姿でした。「この老人は誰か?」と思ってよく見るとなんと自分の姿でした。いつも鏡で見るときは、頭の中で都合よく修正しているのですが、パソコンの画面は、現実の姿を容赦なく見せつけます。 自分の期待値に合わせて作り上げた、誤った自己認識によって生きているんだなあと反省させられました。
 自分を正しく見ることをしないことは、自己正当化や被害者意識が生じ、そこから世界観がゆがみ他者を見る目がくるって、不幸を生み出す元凶になるように思います。
 思わぬことから自分の内面を見つめることの大切さを思い知ったのは、コロナ騒動による不幸中の幸いでした。


息を以てけがれを祓う

 神道の代表的な祝詞(のりと)に、「大祓おおはらえ)の詞(ことば」があります。

 息吹戸(いぶきど)に坐(ま)す息吹戸主という神、根の国・底の国に息吹放ちてむ。斯(か)く息吹放ちてば、根の国・底の国に坐(いま)す速流離姫(はやさすらひめ)という神、持ち流離(さすら)い失いてむ。
             
 日常の中でいつの間にかためてしまう罪や穢(けが)れを祓い清めるための祝詞です。多くの神社で六月と十二月に行われる大祓の神事で唱えられる有名な祝詞です。冒頭の文はその一部で、その意味は次の通りです。

 息を吹く所にいらっしゃる息吹戸主という神様が、地下にある死後の世界を、息を吹いて吹き飛ばすでしょう。こうして息で吹き飛ばせば、その地下の国にいらっしゃる速さすら姫という神様がさすらって出てきて、その罪穢れがなくなってしまいます。

 息吹戸主という神様は、その息吹によって、罪や穢れを吹き払う力を持っています。まさに呼吸の神様と言えます。
 ここで興味深いことは、呼吸が罪や穢れを祓い清める力を持ったものとして、昔の人が考えていたことです。その古人の直感は、呼吸に心を込めた丹田呼吸法を実修して見ると実感できます。実修が終ったあとのあの清々しさは、諸々のけがれが吹き飛ばされた感じがします。

沖正弘師の丹田論

 「丹田に力のはいっていない状況では、上半身に力がはいるために、交感神経ばかりが興奮して、アドレナリンが全身をかけめぐり、このために血液の酸性度が増加します。この現象は人類病といってよいほどに現代の人々のほとんどが見舞われています。」 沖  正 弘(大正10〈1921〉~昭和60〈1985〉)

 日本ではなじみの薄かったヨガ(ヨーガ)という言葉を広めたのは、昭和35年に発刊された沖正弘著『人間を改造するヨガ・行法と哲学』という本でした。高校生だった私も、新聞広告を見て早速買って読んだものでした。
 禅や陰陽哲学などと融合させ、現代的に解釈した、いわゆる沖ヨガは、逝去後35年経った今も多くの信奉者を有しています。それは、東洋の多くの道に通じる丹田の重要さが説得力をもって説かれていルからだと思います。
 冒頭の言葉は、「丹田に力のはいっていない状況では、上半身に力がはいるために」と、上虚下実の重要さを逆の方向から説いています。
 上体を支える役割を持つ丹田がしっかりしていないと、上半身は支えがないので安心して力を抜くことができず、無用な緊張から解放されません。無用な緊張は臨戦態勢にあるということで、アドレナリンが無駄に全身をかけめぐることになるのです。
 現代病のほとんどが、この過緊張からくるものであり、それは丹田に力を入れることで解消されると沖師は説いているのです。
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プロフィール

鈴木光彌

Author:鈴木光彌
1943年(昭和18)東京都葛飾区水元に生まれる
法政大学法学部卒
在学中は応援団に所属し、副団長を務めていたが、今も、人々に生きる勇気と喜びを鼓吹する応援団を任じている。、
昭和55年、公益社団法人調和道協会に入会し、丹田呼吸法を学ぶ
以来研鑚を重ね、現在養根塾を主宰して活動中
著書:「丹田湧気法入門」柏樹社(共著)、「丹田を創る呼吸法」BABジャパン、「丹田を創って『腹の人』になる」小学館、「藤田霊斎 丹田呼吸法」佼成出版社

【養根塾】
◇会場: 高輪アンナ会館
東京都港区高輪2-1-13
都営浅草線 泉岳寺駅A2口徒歩5分
◇日時:毎週火 1:00~3:00PM
◇会費:1000円/1回
自由ヶ丘教室 第2・4金 10:30AM
若葉教室 毎週金 6:00PMも併設
お問合せ 090-5405-4763 鈴木
Eメール
mitsuya@wf7.so-net.ne.jp

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