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丹田常充実

 「丹田に力のはいっていない状況では、上半身に力がはいるために、交感神経ばかりが興奮して、アドレナリンが全身をかけめぐり、このために血液の酸性度が増加します。この現象は人類病といってよいほどに現代の人々のほとんどが見舞われています。」
 この言葉は、沖 正 弘(大正10〈1921〉~昭和60〈1985〉)という人が述べたものです。

 日本ではあまりなじみのなかった、ヨガ(ヨーガ)という言葉を広めたのは、昭和35年に発刊された沖正弘著『人間を改造するヨガ・行法と哲学』という本でした。
 禅や陰陽哲学などと融合させ、現代的に解釈した、いわゆる沖ヨガは、逝去後30有余年たった今でも、多くの信奉者を有し、その著書は今も広く読まれています。

 冒頭の言葉は、「丹田に力のはいっていない状況では、上半身に力がはいるために」と、上虚下実の重要さを逆の方向から説いています。
 上体を支える役割を持つ丹田がしっかりしていないと、上半身は頼りにする対象を失って、安心して力を抜くことができません。その結果無用な緊張を強いられます。いわば、常に臨戦態勢にあるということで、アドレナリンが無駄に全身をかけめぐることになってしまいます。
 現代病のほとんどが、この過剰な緊張からのストレスによるものであることは、今ではよく知られていることです。こんな時代にこそ、丹田呼吸法を実践して、「丹田常充実」でいてほしいと思います。
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東洋の呼吸観

 藤田霊斎師は出典は不明として、次のような中国の古典の言葉を紹介しています。

   息は 新しきを吸い 古きを吐き
   以って臓を錬り 意をもっぱらにし
   精を積み 神に通ず


 「新しきを吸い、古きを吐き」というのは、酸素を吸って炭酸ガスを吐くことです。呼吸のはたらきとして、誰でも知っています。
 東洋においては古来、呼吸をこの吸酸除炭作用に限らないで、もっと多くのはたらきがあると考えていました。

 「以って臓を錬り」とは、内臓を錬るということです。横隔膜が十分に活動する丹田呼吸は、腹圧の変動によって、腹部をマッサージする効果があります。空洞である腹腔に収まっている内臓には、とかく静脈血がたまりやすいのです。心臓は血液を押し出す力はあっても、引き戻す力はほとんどありませんから、どうしてもそうなりがちです。
 この腹部の内臓にたまった静脈血を押し返すのが腹圧です。正しい丹田呼吸は、「臓を錬る」効果があるのです。

  「意をもっぱらにし」とは、精神統一のことです。お釈迦様が呼吸法について説いた、「アーナーパーナサティ」という経典の「サティ」が意をもっぱらにするということです。最近では「マインドフルネス」という言葉でこのことを表しています。
 幸田露伴は、「気は散らしても凝らしてもいけない。気は張っていなくてはならない」ということを言っています。露伴の「気を張る」も、意をもっぱらにすることに通じます。
 
  「精を積み」というのは、生命エネルギーをチャージするということです。あるいは霊性を高めるということともとれます。身心を粗略な状態から、微細な状態に練り上げ磨き上げ、感性を高めていくということです。
 「神に通ず」とは、神様の心に通じてしまう、宇宙に統一する、救われる、真理に目覚める、悟りをひらくということです。東洋においては、呼吸にここまで可能性を見ているのです。

 呼吸は、生きるための基本的な行為です。その呼吸を最も高度に仕上げたものが丹田呼吸法です。丹田呼吸法の実践は、無限の可能性を開いていきます。

浩然の気を養う

  儒教は「孔孟の教え」とも呼ばれるように、孔子に次いで孟子が重要な地位を占めています。「浩然の気を養う」は、その孟子の言葉として有名です。
  「我れ善くわが浩然(こうぜん)の気を養う。あえて問う。何をか浩然の気と謂(い)う。曰く。言い難き。其(そ)の気たるや。至大至剛(しだいしごう)。直をもって養いて害するなければ、則ち天地の間に塞(ふさ)がる。(『孟子』公孫丑(こうそんちゆう)上篇)」

 『孟子』は、中国の儒学者孟子(紀元前372?~紀元前289)の言葉をまとめた書物です。弟子の公孫丑に、「修行のために何をしたらよいのでしょうか?」と問われた孟子は、「私は浩然の気を養う」と答えました。そこで弟子の公孫丑は、「では浩然の気とは何ですか?」と問いました。それに対して孟子は、「それは言葉では言い難い。限りなく広大で限りなく強靭なものである。正直な心を養って執着することが無ければ、天地いっぱいに広がるものだ。」と答えました。

 寒中の中から梅の香がただよってくるときなど、「浩然の気」を感じることができます。この浩然の気を養うには、正直な心と、ものごとに執着しないおおらかな心が大事だよと、孟子は、弟子の公孫丑に答えています。
 それに加えて、調和道丹田呼吸法を一心に実修することも、浩然の気を養う大切な方法です。
 孟子も呼吸法を実践していたようですので、この考えには大賛成されると思います。

童心にして不動心

 地球環境の汚染について早くから警鐘を鳴らしてきた、レイチェル・カーソンというアメリカの海洋生物学者に、『センス・オブ・ワンダー』という著書も話題を呼びました。驚く感性という意味でしょうか。
 確かに、活き活きとした人生を送るためには、大自然の中に生かされていることの不思議さ、神秘性に驚くセンスが必要だと思います。
 国木田独歩の『牛肉と馬鈴薯(ばれいしよ)』という小説に「不思議なる宇宙を驚きたい」というセリフが出てきます。とにかく驚きたいというのが、この人物の最大の願いなのだというのです。
 八木重吉という詩人に、

 おさない日は
  水が もの云ふ日
 木が そだてば
  そだつひびきが
      きこゆる日


という詩があります。
 水を見ても、木を見ても、幼い日は不思議に感じたものでした。そういう感性は次第に薄れしまうのです。そして一方で、不退転の強靭な精神力を持ち、現実の問題に立ち向かう強い力も必要です。この繊細な感性と強い心を併せ持つことを、「童心にして不動心」という言葉にしました。
 童心と不動心、この両極を統合するのは、丹田呼吸によって上虚下実の体勢を作ることです。子供のような無邪気さ、しなやかさを上虚によって、そして大人のしたたかさを下実によって実現するのです。
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プロフィール

鈴木光彌

Author:鈴木光彌
1943年(昭和18)東京都葛飾区水元に生まれる
法政大学法学部卒
在学中は応援団に所属し、副団長を務めていたが、今も、人々に生きる勇気と喜びを鼓吹する応援団を任じている。、
昭和55年、公益社団法人調和道協会に入会し、丹田呼吸法を学ぶ
以来研鑚を重ね、現在養根塾を主宰して活動中
著書:「丹田湧気法入門」柏樹社(共著)、「丹田を創る呼吸法」BABジャパン、「丹田を創って『腹の人』になる」小学館、「藤田霊斎 丹田呼吸法」佼成出版社

【養根塾】
◇会場: 高輪アンナ会館
東京都港区高輪2-1-13
都営浅草線 泉岳寺駅A2口徒歩5分
◇日時:毎週火 1:00~3:00PM
◇会費:1000円/1回
自由ヶ丘教室 第2・4金 10:30AM
若葉教室 毎週金 6:00PMも併設
お問合せ 090-5405-4763 鈴木
Eメール
mitsuya@wf7.so-net.ne.jp

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