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一生向上の道

文明開化の世を目前にした幕末の頃、剣の腕前だけでなく、精神性にも優れた剣術家が輩出しました。そのうちの、白井亨義謙(よしかね)を取り上げてみたいとおもいます。
 白井は、体力的にも腕力にも恵まれませんでしたが、激しい稽古によって道場では並ぶ者のないほどの腕前となり、武者修行に出ます。
 武者修行中も白井の努力は続きました。そんなある日、不思議な境地に立ちました。「強いほうが勝ち、弱いほうが負ける。しかも強くなっても、年とともにその強さも衰えていってしまう。そんなことに命をかけて何になるのだ。思えばバカなことをしてきたものだ」と、泣いて過去を喰います。そして年齢と共に成長していく道を求めるのです。
 そんな思いを、かつての兄弟子の寺田宗有に語ると、寺田は白井に、精神を練ることの大切さを説き、水をかぶることをすすめました。そこで早速実践し始めますが、寺田程の頑健な体力に恵まれない白井は、水行によって体調を損なってしまいます。
 次に寺田は、白隠禅師の弟子の東嶺禅師から伝授された丹田呼吸法をすすめます。この丹田呼吸法によって白井は、年とともに進化向上する剣の道に開眼します。そして、白井の剣先から白い輪が出ると自称するほどの域に達します。勝海舟も[白井先生の剣はすばらしい]と絶賛しています。
 現代の様に、物量やパワーに価値を置く風潮の中では見ることのできない、年齢とともに進化向上する道があることを白井亨は実現して見せました。その秘訣は、丹田呼吸法にあったのです。
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タンポポ魂

 土の詩人、いのちの詩人、祈りの詩人、癒しの詩人・・・など、さまざまに形容された詩人、坂村真民さん。
 真民さんには、丹田を歌った詩がいくつかあります。つぎの「タンポポ魂」という詩は、丹田という言葉を使っていませんが、その背景に丹田のこころがかくされています。

「タンポポ魂」
踏みにじられても
食いちぎられても
死にもしない
枯れもしない
その根強さ
そしてつねに
太陽に向かって咲く
その明るさ
わたしはそれを
私の魂とする


 真民さんは、民衆救済のために生涯を傾けた一遍上人の生き方に、深い共鳴を寄せていました。全国を遊行した一遍さんの、あくなき求道と伝道の力強さに、タンポポの魂を見たのでしょう。
 丹田呼吸法の実践は、タンポポのような根強さと明るさを身につけさせてくれるように思います。丹田力によって養われる忍耐力と実行力は、タンポポの根の力そのものだからです。
 タンポポ魂の坂村真民翁は、晩年まで前向きな詩を作り続けて、九十七歳の長寿を全うされました。

Head Hand Heart Hara

 わが国は、明治維新でヨーロッパから学び、第二次世界大戦後はアメリカから学んで近代的発展を遂げました。しかし、他文明を取り入れるに急なあまり、自国の良いものまで捨てて省みなくなった弊害もありました。大掃除の繁忙にまぎれて、宝物まで捨ててしまいました。

 19世紀の教育実践化ペスタロッチは、頭(Head)と手(Hand)とを、胸(Heart)で生かす「3H」の全一教育を提唱しました。すなわち、知力と技術力を意志力で統一した人物を育てる3H教育を考えました。
 京都大学教授であった故下程勇吉博士は、もう一つ「Hara」を加えて「4H」教育を主張しました(『肚―人間の重心』より)。
 腹によって、知性・技術・意志にいのちを吹き込んで統一するということです。腹がなければ、知性と技術と意志とを一元的にまとめて、生きてはたらかせることができないのです。
  戦後、捨ててしまった大切なものの最たるものは、「腹」を重視する心です。昔から武術の世界では、腹の下部を丹田と言っています。下腹部である丹田を中心に鍛錬をしていくと、健康、美容、スポーツ・武道・芸能など諸道の向上、精神力強化、など、驚くほどの効果を発揮するのです。
 丹田呼吸法は、「腹」を養うために最もすぐれた方法です。

剣と丹田

  『直心影流(じきしんかげりゆう)法定(ほうじよう)目録伝解』という伝書には、次のような丹田についての記述があります。ます。

 平日非日常共に、心丹田に有時(あるとき)は万事に怖れ迷う事なく、決断臨機応変の自由をなす者也(なり)。心を丹田に治むるを正直とす。丹田とは心の居処(いどころ)也、即ち田畑より五穀に出る如く、丹田より万事を生じ出す故丹田と云う。
(原文の片仮名を平仮名、送り仮名等一部改めています)
       
 日常でも特別な時でも、常に心を丹田に置いておくと、とっさに冷静な判断ができ、あらゆる事態において臨機応変の対処できる、ということが書いてあります。
 直心影流法定とは、本来人間が有している〝いのちのはたらき〟を、あるがままに顕現するための鍛練法であると言えます。日常生活においていつの間に狂ってしまった〝いのちのはたらき〟を、本来の姿にもどすための型ということです。
 五穀のいのちが生え出る田畑と、〝いのちのはたらき〟の場である丹田は相似的な関係にあります。
 自分の身に備わった豊饒(ほうじよう)な田畑である丹田を、丹田呼吸法によって形成しておきましょう。
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プロフィール

鈴木光彌

Author:鈴木光彌
1943年(昭和18)東京都葛飾区水元に生まれる
法政大学法学部卒
在学中は応援団に所属し、副団長を務めていたが、今も、人々に生きる勇気と喜びを鼓吹する応援団を任じている。、
昭和55年、公益社団法人調和道協会に入会し、丹田呼吸法を学ぶ
以来研鑚を重ね、現在養根塾を主宰して活動中
著書:「丹田湧気法入門」柏樹社(共著)、「丹田を創る呼吸法」BABジャパン、「丹田を創って『腹の人』になる」小学館、「藤田霊斎 丹田呼吸法」佼成出版社

【養根塾】
◇会場: 高輪アンナ会館
東京都港区高輪2-1-13
都営浅草線 泉岳寺駅A2口徒歩5分
◇日時:毎週火 1:00~3:00PM
◇会費:1000円/1回
自由ヶ丘教室 第2・4金 10:30AM
若葉教室 毎週金 6:00PMも併設
お問合せ 090-5405-4763 鈴木
Eメール
mitsuya@wf7.so-net.ne.jp

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