腹の人を創る丹田呼吸法

 人物の魅力を語ろうとするとき、その魅力の核心は言葉で言い尽くすことは出来ません。本当の魅力は、言葉で表せないところにあるのです。
 言葉で長所として簡単に表せることは、かえってそれが臭みになってしまうことがあります。修行者がいかにも修行しましたというものが表に出てくるといやみになります。やさしい人がやさしい人間であることを標榜すると臭みになります。
 いわゆる「味噌の味噌臭きは上味噌にあらず」ということです。味噌臭さのなくなるまで熟(な)れ込むことが大切です。
 「慈悲して慈悲するときは慈悲にあらず」と言います。慈悲していることを意識したのでは、もはや慈悲にならないということです。
 昔から理想の人物像を「腹の人」と言ったのは、実践によって無意識にまで練りこんだ人のことです。
 腹の人というと、武士道という言葉が浮かびます。腹を練ることで涵養される、礼節を重んじる心、恥を知り自らを慎む潔さ、天命を知ってそれを命がけで貫こうとする気概、周囲の人たちへの温かい慈悲の精神など、腹によって練られる徳性は、武士道精神と重なります。
 武士道に磨きをかけた江戸時代の精神文化は、封建的の名の下に捨て去るには惜しい、高遠なものを備えています。それは今もなお、人類の共有財産とするに足るものを持ち合わせていました。
 丹田呼吸法は、腹の人を目指す武士道の心が育んだ貴重な身体技法であり、心法であるのです。
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呼吸を止めること

 12年程前に公開された、「ミリオンダラー・ベイビー」というハリウッド映画がありました。クリント・イーストウッドの監督作品で、第77回アカデミー賞を受賞しています。
 この映画の中で、ボクシングの町道場のコーチであるフランキー・ダン(モーガン・フリーマン)が、ボクサー志望の女性マーガレット(ヒラリー・スワンク)にアドバイスをします。それは、「君はプレッシャーがかかると、呼吸を止めるクセがある」ということでした。
 マーガレットは、試合中の緊迫した場面になると、緊張のあまり呼吸を止めてしまう欠点がありました。呼吸を止めることで身体が硬直して、動きが自由さを失ってしまうのです。 
 これは目の前で突然爆発音がしたような場合、足がすくんで歩けなくなってしまうといった状態です。武道の世界では、この状態を「居つく」といいます。居つくことは、スキだらけになることですから、武道ではあってはならないことです。ボクシングも同じで、居つくことで相手にいいようにパンチを浴びせられてしまいます。
 沢庵禅師が『不動智神妙録』で、不動とは石や木のように動かないのではなく、心をあらゆる方向にはたらかせて、一つの物事にとらわれないことだと説いているのは、この「居つく」ことを戒めているのです。
 ダンコーチのアドバイスによってマーガレットは開眼し、一流のボクサーへと成長していきます。

 丹田呼吸法から言っても、呼吸を止めることは「努責」といって、避けるべきこととしています(丹田呼吸法には、努責を生じさせずに呼吸を止めることはありますが、初心のうちは絶対避けるべきです)。マーガレット選手はボクシングの修練の中から、呼吸を止めることのない丹田呼吸法と、上虚下実の姿勢を修得したのです。

感謝の呼吸

 「天の父様、吸う息が苦しみであっても、吐く息は感謝でありますように。一刻一刻が恵みの呼吸なのですから」
 河野進さんという牧師さんの言葉です。

 普通私たちは、小さな自分の思考の枠の中から、楽しいとか苦しいとか判断しています。しかし、いま自分に起こっていることが、自分の人生を大きな視点からは、良いことであるのか悪いことであるのかわかるものではありません。

 丹田呼吸を実修していると、この河野牧師のいうことがよく理解できるようになります。
 丹田呼吸は、吐く息に心を込めることがポイントです。吸う息は与えられる運命ということです。その吸気を大切に受け止めて、吐く息で感謝の反応をするのです。すると胸中に感謝の念があふれてきます。その結果、次に前以上の質の高い吸気が誘発されます。そして次の呼気が一層感謝の呼気になるという好循環が引き起こされるのです。

 感謝の気持ちがあふれると、自然に丹田は充実感に満たされます。 丹田呼吸は、ただ酸素を吸って二酸化炭素を吐き出すだけではありません。感謝という最も気高い精神を生み出してくれるのです。吸う息が天からのメッセージとすれば、吐く息は、天に向かっての私たちの感謝と喜びのメッセージになるのです。つまり、吐く息そのものが感謝になるのです。

腹の人

  「こけたら立ちなはれ」とは、パナソニックの創設者である松下幸之助さんが部下によく言った言葉だそうです。「こける」とは、失敗、挫折、敗北のことです。こうしたことを、不名誉な敗北と考えると、素直に立ち上がる気持ちになりません。責任転嫁したり、言い訳したり、倒れたことを認めずにかくしたりします。
 人生に、失敗、挫折、敗北はつきものです。誰でも皆不完全なのですから、一所懸命やっていてもこれらは避けられません。大切なのは、こけたらすぐに立ち上がり、こけずに歩く方法を工夫することです。こけたことから多くのことを学び次に生かすことです。
「腹の人」とはそのような人です。自分の不完全さ弱さを知り、失敗することも想定して、全力を尽くす人のことです。

 失敗したら恥ずかしい。挫折したら体面にかかわる。敗北したら自分の存在価値失う。などと考えるのは、みな頭がでっち上げた妄想です。元来不完全なのに完全であるという錯覚を頭で作っているのです。こういう人は、自分で作った妄想に怯えて、積極的な行動をしなくなってしまいます。

 腹の人は、失敗した自分を素直に認め、腹をくくってその事実から再出発します。転んだら、腹に力を込めて立ち上がり、力強く歩き始めます。
 こけたら立つ。失敗したら自分の至らなさを反省し明るく仕切りなおしをする。挫折にも敗北にも、被害者意識におちいらずに進み続けます。
 失敗、挫折、敗北といった、一見マイナスの事態を生かしてプラスに切り返す、そんな腹のできた人が、これからの時代を切り開いていく、最高の資質を持った人であると思います。
 養根塾は、腹の人を目指す人の道場です。

プロフィール

鈴木光彌

Author:鈴木光彌
1943年(昭和18)東京都葛飾区水元に生まれる
法政大学法学部卒
在学中は応援団に所属し、副団長を務める
今も、人々に生きる勇気と喜びを鼓吹する応援団を任じている
昭和55年、公益社団法人調和道協会に入会し、丹田呼吸法を学ぶ
以来研鑚を重ね、現在養根塾を主宰して活動中
著書:「丹田湧気法入門」柏樹社(共著)、「丹田を創る呼吸法」BABジャパン、「丹田を創って『腹の人』になる」小学館、「藤田霊斎 丹田呼吸法」佼成出版社

【養根塾】
◇会場: 高輪アンナ会館
東京都港区高輪2-1-13
都営浅草線 泉岳寺駅A2口徒歩5分
◇日時:毎週火 1:00~3:00PM
◇会費:1000円/1回
自由ヶ丘教室 第2・4金 10:30AM
若葉教室 毎週金 6:00PMも併設
お問合せ 090-5405-4763 鈴木
Eメール
mitsuya@wf7.so-net.ne.jp

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