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呼吸法の基本

 人は息を吐くときは、前向きの格好になるんだね。息を吸うときはそり気味になる。呼吸のことはよく知らなかったけれど、呼吸に意識を集中していたら気持ちが静まってきた。やがてしんどかった体から、かすかに念仏の声が聞こえてきたんだ。
 ・・・最初はたよりない声だったのに、だんだん腹に力が入っちゃって、響くような声になってきた。・・・もしかして自分の体の中に仏様がいるんじゃないかっていう気持ちにさえなってきた。それが、呼吸の大きな力を知った瞬間だったんだ。
(酒井雄哉著『一日一生』朝日新書)

  坂井雄哉師(大正15〈1926〉~平成25〈2013〉)は、史上三人だけという二千日回峰行を満行され、決死の「常行三昧」という荒行を達成された稀有の方です。それだけに呼吸への集中度はすごいものがあります。
 その呼吸を続けていると、だんだん丹田が充実してきて、体の中からかすかに、やがて響くような念仏の声が聞こえてきたというのです。
 体験者の言葉だけに、非常に説得力があって、丹田呼吸法を実践していくうえで、大きな励みになる言葉です。

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間接の努力

 先日NHKテレビで、引退を表明したイチロー選手の特集番組を放送していました。
 シアトルにあるイチロー選手の自宅の玄関のドアが開くと、いきなりそこはトレーニングルームでした。そこには、見たこともないトレーニングマシンが所狭しと並べてありました。彼はそこで毎日トレーニングを続けてきたということです。

 試合中のイチロー選手は、一時も気を抜かずイマのプレーに集中します。それは、時折テレビが放送する大リーグの試合の映像から目にするところです。
 こうした試合中の努力を、幸田露伴は「直接の努力」と言っています。それに対して、試合外の毎日のマシンでのトレーニングは、「間接の努力」です。
 言い換えますと、「直接の努力」とは当面の努力であり、「間接の努力」とは準備の努力です。
 二つのうち「間接の努力」が大切なのだと露伴は言います。とかく努力しても成果が上がらず無駄骨に終わるのは、「間接の努力」が足りないからだと言うのです。
 たいかに、事態がに直面しないと、私たちはつい準備の努力は後回しにしてしまうものです。

 本欄で取り上げている丹田呼吸法は、地道に人生の土台を築いていく「間接の努力」そのものの行為です。日ごろからじっくりと、心を込め、あせらず急がず続けていくことが大切です。

 努力論と言えば、フィギュアスケートの羽生結弦選手の次の言葉も、「間接の努力」を語る名言です。
 「努力はウソをつく。でも無駄にはならない」

いのちのほほえみ

 ほほえみは、好意的で肯定的な気持ちの時に、自然に顔に表れます。
 お釈迦様が弟子たちの前で、花をひねって見せたとき、迦葉(かしょう)という人だけがニッコリとほほえみました。それを見てお釈迦様は、迦葉に仏教の奥義を伝えたという話があります。
 迦葉のほほえみに、釈迦の全てを理解し全肯定した境地が表れていたのでしょう。このことは「拈華微笑(ねんげみしょう)」という禅の公案として残っています。
 
 いのちが開放され、活き活きとはたらいていることの象徴として、ほほえみが浮かびます。筑波大学名誉教授の村上和雄先生は、ほほえんでいるときには、遺伝子のスイッチはオンになっているということです。この時免疫系、内分泌系、自律神経系は本来の機能を十全に発揮されます。

 ほほえみは、上腹部(みぞおちとへその間)と密接な関連があります。上腹部が硬く張っていると、ほほえみが浮かぶことはありません。養根塾で実修する波浪息は、上腹部をゆるませるために有効な方法です。波浪息によって上腹部がゆるむと、ほほえみが自然に浮かびます。
 絶えざるほほえみは、いのちそのもののほほえみとなり、心をいつも安らかに保つのです。

丹田と腹圧

 腹を据えるということは丹田を充実させるということ、丹田を充実させるということは腹圧をかけることです。
 腹圧を形成するのは、横隔膜、腹横筋、骨盤底筋群という三つの筋肉です。
 横隔膜はドーム球場の屋根のような形をした膜状の筋肉で、腹腔の上部を形成しています。横隔膜は緊縮すると、下方に下がってきます。下がって腹腔の容積が狭くなった分圧力が生じるのです。
 骨盤底筋群は第二の横隔膜とも呼ばれ、腹腔の底部を構成していて、緊縮した時に横隔膜に対応して上方に上がって腹圧を生じます。下降する横隔膜と、上昇する骨盤底筋群によって、上下挟み撃ちで腹圧を作りだします。
 腹横筋は、下腹部の外側から順に、外腹斜筋、内腹斜筋、その一番内側にあって下腹部を差さえ保護しています。特に腹横筋は、コルセットのように下腹部を引き締めるはたらきをしています。
 何事をするにもコツがあります。そのコツのことを呼吸とも言います。コツをつかむコツは、腹圧を応用した丹田呼吸法です。丹田呼吸法は、諸芸・諸道に通じる大原理です。ですから、丹田呼吸法をお勧めしたいのです。

丹田呼吸はストレスをも活かす

 今、ストレスを原因とする病気に悩まされている人が多くいます。ストレスが、自律神経の失調、免疫力の低下、ホルモン系の乱れを引き起こし、身心が病んでしまうのです。
 現代は、あらゆる面で便利になって、昔に比べてストレスは少なくなっているのに、ストレスに起因する病気が多いというのは不思議です。便利な生活環境が、ゆとりある人生に貢献していないということです。むしろ便利さが、目まぐるしさ、息苦しさをもたらしているところがあるように思えます。
 だからといって、不便な生活に逆戻りするわけにはいきません。ストレスを受け止める、こちらの態勢を調えることが先決です。
ストレスは身体をいためるもの、心を乱すものと恐れていると、ストレスはますます牙を剥いて襲いかかってきます。ストレスに直面したら腹を決めて、ストレスを正面から迎え撃つ気概を持つことが大事だと思います。

 ストレスを迎え撃つ気概は、丹田呼吸によって養われます。丹田呼吸によって、「ウンッ」と丹田に気を込めると、腹の底から勇気が湧いてきます。「サア、来い!」という気力がみなぎってくるのです。
 こうなりますと、もはやストレスは害ではありません。むしろ、食欲増進させる香辛料のようなものです。ピリッと身心を引き締めて、前向きな心構えを形成します。
 そんな丹田呼吸法を、多くの人に実践して頂きたいという願いで、養根塾は活動しています。
プロフィール

鈴木光彌

Author:鈴木光彌
1943年(昭和18)東京都葛飾区水元に生まれる
法政大学法学部卒
在学中は応援団に所属し、副団長を務める
今も、人々に生きる勇気と喜びを鼓吹する応援団を任じている
昭和55年、公益社団法人調和道協会に入会し、丹田呼吸法を学ぶ
以来研鑚を重ね、現在養根塾を主宰して活動中
著書:「丹田湧気法入門」柏樹社(共著)、「丹田を創る呼吸法」BABジャパン、「丹田を創って『腹の人』になる」小学館、「藤田霊斎 丹田呼吸法」佼成出版社

【養根塾】
◇会場: 高輪アンナ会館
東京都港区高輪2-1-13
都営浅草線 泉岳寺駅A2口徒歩5分
◇日時:毎週火 1:00~3:00PM
◇会費:1000円/1回
自由ヶ丘教室 第2・4金 10:30AM
若葉教室 毎週金 6:00PMも併設
お問合せ 090-5405-4763 鈴木
Eメール
mitsuya@wf7.so-net.ne.jp

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